ダンサー、刈田順也という男
まるで茶碗蒸しの中にいるみたいにさわれるくらいドロ~っとした空気の中をかきわけて、コンビニに缶ビールを買いに行くのもしんどい今日この頃。連日今年の最高気温を記録し続け、雨一滴降らず、狂ったように鳴き続けるアブラゼミと近所の赤ん坊。それでもかろうじて新宿からほど近い、ひなびた商店街の一角の、昭和の忘れ物みた いな市場の二階で、『ダンサー、刈田順也という男』と一献酌み交わした。
スキンヘッドとイカツイ容姿、そして真夏よりも熱い雰囲気をまとって、彼は最北の地、北海道は札幌から来たと、涼しげとは言えない笑顔でそう言った。
幼少の頃は聖飢魔IIと安全地帯を好み、光GENJI全盛の頃、ローラースケートを履きながら「蝋人形にしてやろうか」と近所の子供(当時彼も子供であったであろうが…)を脅かしていたそうである。
後にビートルズやエルトンジョンなどの洋楽に傾倒しつつ、深夜番組でDANCE×3を見て以来、ダンスとヒップホップ音楽にどっぷり浸かった中学時代をおくる。
彼のダンスライフはPublic Enemyに始まり、Cypress Hiliから多大な影響を受け、その音楽性から刈田順也なりのスタイルを築きあげたと思われた頃、彼は民族ダンスに興味を持つこととなる。
二十代前半の多感さ極まる彼は、地元札幌から東京へ、ロシアのモスクワで13時間のトランジット、エジプトのカイロを経由して、アフリカ大陸は東アフリカに位置するケニア共和国へと上陸する。
初の外国でもあるアフリカ、ケニアで、少数民族達のプリミティブなビートとダンスに感化されながらも、少数民族達にロボットダンスを披露したのは日本人では彼が唯一などではないかと思われる。
一ヶ月をケニアとタンザニアで過ごした彼は、膨大なインスピレーションを北海道に持ち帰り、それまでとは違った概念で再び地元札幌で活動し始めることとなる。
アフリカに行く以前はヒップホップ一辺倒だった彼の音楽的嗜好は、民族音楽やレゲエミュージックへと幅を広げ、それまでのスタイルを打破するために試行錯誤し、使う衣装や音楽も変化させていく。
サウンド全体を一つのリズムしてとらえ、作り手の感情さえも踊りのエッセンスとして埋め込んでいく、自問自答を繰り返しながらオリジナルなスタイルを追求し、その結果彼は以前よりもディープなヒップホップへと再び回帰していくのだが、その中で既存する曲と自分の踊りとの間でギャップを感じる様になる。
そこで彼の選んだ道は自作自演。
MPCや、民族楽器、自分の声を使ってトラックをつくり、しかも踊る。
そんな活動を経た 、今は音は音屋に、自らは踊り屋に、より職人的アーティストへと昇華する。
ステレオタイプな表現をそぎ落とし、アフリカ訪問以前とは違う価値観で『ダンサー、刈田順也という男』は自らを敢えてヒップホップダンサーだと明言する。
彼曰く、ヒップホップは習うものではない!
確かにアメリカ、ブロンクス生まれのヒップホップカルチャーは泥臭さを無くし、音楽もダンスもグラフィティーも、教室で習う良い子ちゃんのおもちゃみたいになってしまった感がある(日本ではと断っておくが…)。
そもそも、ヒップホップはストリートで生まれた、二進も三進もいかない貧困層のうめき声であったわけで、ルールも型もあってないものだったはずだ。
右往左往しながらも唯一無二のスタイルを模索し、様々な異ジャンル人間とコラボレーションしながら、『ダンサー、刈田順也という男』はこの先も北海道、札幌中心での活動にこだわり、日本全国を踊り歩くのだそうだ。
今回、刈田順也は地元札幌にて、舞踏家である田仲ハル氏と共に、『ONE WAY STREET』と銘打った舞台を演ずる。
この先の生業をダンス一本で、と覚悟を決めた彼にふさわしいタイトルである。
Don’t Look Back!
No Direction Home!
彼の訪れる街々が、気取らず人情に溢れ、安くてうまい飯とうまい酒、笑いと音楽と踊りが絶えない場であろうことを祈りつつ
2015/8/9/成田雲助


HAL TANAKA & JUNYA KARITA
田仲ハル(舞踏)× 刈田順也(ダンス)
「ONE WAY STREET」
ジャンルを越えた組み合わせの両者が手を組む。
最北の舞踏家・田仲ハルと、ストリートを昇華させる北の顔役・刈田順也。
行ったきり戻って来れない路、ワンウェイストリート
2015年8月29日(土)
○昼公演
13時30分開場 14時開演
●夜公演
18時30分開場 19時開演
予約 2,000円 当日 2,500円(昼・夜の両方を観覧希望の場合、割引3,500円)
出演 田仲ハル、刈田順也
会場
オノベカ
〒064-0811 北海道札幌市中央区南11条西7丁目3-18
TEL : 011-596-6726
電話予約 080-6081-9088
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